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二次元NLCPに愛を注ぐブログ (苦手な方はダッシュで逃げてください)
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妄想はする。

というわけで、以下、ネタバレというか、妄想補完というか…な、SS収納してます。
読んでみたい方は続きからお願いします^^





キ ズ ア ト




「ほらリョーマ、病院連れて行くから乗りな。…桜乃もついてくるだろ?」


車の運転席から私たちを見上げて、おばあちゃんは後部座席へと促す。
私はこくりと頷いて隣のリョーマくんの様子を伺ったが――彼はなかなか動こうとしなかった。

それを見かねたおばあちゃんが息をついて言う。

「ほれ、早くしないかいっ!診てもらわないことにはどうしようもないだろう?」
「や…いいんスか?」
「…何を遠慮しとるんだい、お前さんらしくない。いいから乗った乗った!」
「…じゃあ、どもッス」

ぺこりと頭を下げながら、リョーマくんが渋々と車に乗り込む。
それを見届けてから、私はおばあちゃんの隣の――助手席に乗ろうと、した。


「あぁ、桜乃も後ろに座ってくれるかい?」
「え?」
「すまないね、ちょっと今は――さ」

そう言って小さくウインクをしてみせるおばあちゃん。
――もしかして気を遣ってるつもりなのか。
一瞬カッと頬が熱くなるのが分かったが、今はその気遣いもちょっとだけ恨めしかった。

けれどそう言われてしまったら断るわけにもいかない。
私はドアを閉め直して、おずおずと後ろの座席――つまり、リョーマくんの隣へと腰を下ろした。

リョーマくんは何も言わない。ただ黙って、窓の外を眺めている。
そんな彼を、なんだか私は直視出来なくて――思わず目を反らして俯いてしまった。

「ドアちゃんと閉めたね?出発するよ」
「はい…」

車が徐々にスピードを上げて発車する。
病院までそんなに時間はかからない。歩いても10分で着くのだから、車だとせいぜい5分くらいのはずだ。

早く着いて欲しいと思った。


早く、早く――リョーマくんの怪我が、治ってくれたら。




もう一度、ちらりと横目でリョーマくんを見てみる。
横顔。だけどこの位置からでも、応急措置の施されている左目ははっきりと見えた。

きっと、今でも血が流れ続けているはずだ。
白いはずの布地がじわりと赤く染まっていて、痛いんだろうな、と顔をしかめた。


――片目の見えない状態で、なんて余程のハンデ。
そんな状況で、それでも試合に臨もうとして、そして勝ってしまう彼は、やはり凄いんだと思う。

と同時に、あんな風に取り乱してしまった自分を酷く恥ずかしいと思った。
初めて会った時にもこんなことがあって、彼が嫌がることなど分かっていたはずなのに。
結局私は、彼の邪魔をしただけだったのだ。


そう考えたらなんだか自分が許せなくなってきて、膝の上に乗せていた手をきゅっと握り締めた。

――リョーマくんは怒っているのだろうか。




「――ねえ、」

不意に、今まで黙りっぱなしだったリョーマくんが口を開いた。
一瞬私に対する呼び掛けだと言うことが理解できなくて、反応するのが少しだけ遅れてしまった。

「わ…私?」
「…そうだけど」
「ご、ごめん……何?」

リョーマくんはこちらを見ないまま、暫く言いにくそうに視線をさ迷わせて――やがて満を辞したように言った。

「やめない?」
「え?」
「なんていうか、その…泣きそうな、そういう顔」

『そういう』のところで、リョーマくんはちらりと私の顔を見た。
彼の言葉で、自分が今どんなに情けない表情をしているのかを理解する。
私ははっとして、思わず下を向いてしまった。

「ご、ごめんなさい…」
「別に謝ってほしいわけじゃないんだけど…ただ、さ、」
「…ただ……?」

そろそろと、リョーマくんの表情を再度伺ってみる。
彼は私と目が合うと、少し頬をひきつらせて言った。

「…そんな、痛そうな顔されると、なんか傷に響く気がする」
「!ご……」
「だからごめんはいいって。…っていうか、俺がいけないんだし」
「え……?」

彼の言葉に目を丸くして、首を傾げた。――言っている意味が分からない。
リョーマくんは一つ息をついて、左目を指差しながら私に言った。

「見るからに痛いんだろうね。まあ、俺としてはそこまで痛くないんだけどさ」
「そ……」
「でもさ、アンタが怪我したわけじゃないんだから。…なんか、俺よりアンタの方が痛そう」

そうそう、と、自分の言葉に相槌を打ちながら、時には笑ってみせるリョーマくん。
そんな彼の様子を見ながら――私はほっと安心したのと同時に、やっぱり少しだけショックを受けてしまった。

「……違うの」

小さく首を振る。
そのまま視線を足元に落とした。

――私が痛がっているのは、彼の傷だけじゃなかったから。

「…ごめんね、リョーマくん」
「だから謝らないでい…」
「そうじゃないの…」

何かを感じ取ったのか、リョーマくんがすっと息を呑んだのが分かった。
私はそれでも顔を上げずに、思ったよりも掠れた声を出して――小さく言った。

「リョーマくんの傷、のこともあるけど…それだけじゃないの。
私、またリョーマくんに迷惑掛けて、ほんと…恥ずかしいやら、申し訳ないやら……」
「………」
「何て言ったらいいのかな…うん、余計なお世話、だったよね。私、選手に対して、凄く酷いことしたんだよね……」

前に朋ちゃんに試合観戦のマナーを指摘したことがあった。
だけどそれよりも、私は――最低のことをしたんだと思う。


だから。




「ごめん、なさい……」

頬も、握り締めた手も。
声が出た喉元や閉じた瞼でさえ、全てが焼けるように熱かった。

今なら、分かる。
リョーマくんが突き放してくれたのは、きっと私のためだった。
おばあちゃんが怒ったのだって私のためでもあったはずだ。

何度謝っても足りないと思う。

――傷が出来たのはきっと、リョーマくんだけじゃなかった。








「――あのさ、」

暫くの間を置いて、リョーマくんがゆっくりと口を開いた。
私はきっとまた彼の言う『そういう』表情になってるんだろうから、振り向くことは出来なかった。――したくなかった。
それを分かっていたのか、リョーマくんは空気を変えずに続けていく。

「まあ、それは、確かに…よくない、ことだと思うんだけど……」

リョーマくんにしては珍しく歯切れが悪い気がした。
けれど言いたいことは分かるから、私は黙ったまま頷いて次の言葉を待つ。

静かな車内で、リョーマくんの息の音だけが耳に届いた。
1回、2回――3回呼吸を繰り返して、彼はゆっくりと息を吐くと同時に続けた。




「感謝、してるところも、ちゃんとあるから」
「――え………?」

思わず――そうほんと、無意識に顔を上げてしまった。
気付けばリョーマくんは、塞がっていない方の目でしっかりと私を見ていて。
――片目でも十分真剣さが伝わってきたから、目が反らせなくなった。

視線が交わったまま、私は呆然と尋ねた。


「…『感謝』って……?」
「だから…俺のこと、心配…してくれたのは、ありがたいと思ってるから」
「っ……」
「っていうか凄かったね、あん時…竜崎もあんな強気な時あるんだ、と思って。ちょっとびっくりして何も言えなくなった」
「そ、れはだって、あんなに血流れてたら…っ」
「うん、だから――俺のためかと思ったらちょっと嬉しかったよ」

ちょっとだけ、ね。

そう言ってリョーマくんはふっと笑ってくれた。


――念を押して『ちょっとだけ』なんて、本当は一言多いのかもしれない。
けれどこの時の私には、何より心の軽くなる言葉だった。

少しだけ面白そうに、だけど優しい笑顔に私はつられて笑って見せたけれど――上手く笑えていなかったかもしれない。

本当は泣きそうで泣きそうで、堪らなかったから。

だから頑張って出した声も、少し震えていたと思う。

「――あ、の、リョーマくん…」
「…『ごめん』は聞き飽きたからね」
「うん、違うよ…


ありがとう……」




(…本当は『ごめん』だって言おうとしたけど、)

まんまと先手を取られて苦笑した。
けれどそれもまたありがたいと思う。あまり声を出していたくはなかった。






――今日の日のことを、私は一生忘れない。
初めて目の当たりにした、青学の都大会優勝の日。喜ばしい日である前に、いろんなことがあった。

中でも絶対に忘れてはならない。
彼の瞼に傷が出来た日。痕が残らなければいい、と切実に思った。


そして私の心にも傷は出来た。これは逆に、一生消えて欲しくはない。

苦しみと、切なさと、少しのありがたさと。そして何より、溢れ続けた愛しさを。

残ればいい。
深く、深く刻み込んで、傷痕になればいい。
――彼の優しさも、この時だけは傷を癒すものじゃなく、より深くするものであればいい。




彼と同じではないけれど、何故か瞼がきりりと傷んで、やっぱり私は少しだけ泣いた。







----------------

車の中を妄想してみたり、とか。
またしてもちょっと切ないかな……シリアスな雰囲気が少しでも出てたらこれ幸い。

なんか、思ったよりもすんなり書けました。
ここのところは、ずーっと自分なりに考えてきたところだったから。やっと形にできたので良かったです^^
帰ったらまた少し修正かけとこうと思います;

それでは読んで下さった皆様、本当にありがとうございました!

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